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石川淳研究会第16回研究会印象記

帆苅基生

 諸事情から平日の開催となり、参加者が少なかったのは残念であるが、その代わり密な議論ができ非常に有意義な研究会になった。

 今回のテーマは、渡辺喜一郎氏の『石川淳傳説』(20138月、右文書院)が刊行されたため合評会を行った。

 まず合評の前に、渡辺氏によって今回の著書には掲載されなかった画像がスクリーンに提示されて説明がなされた。印象深かったのは親戚の結婚式の集合写真に写る石川の姿であった。自らの私生活や家族についてほとんど語ることが無かった石川であるが、親戚の義理を律儀に果たしてる姿は不思議な思いを抱かせるものであった。なぜなら彼の小説やエッセイからはなかなか覗くことができないものだったからである。

 渡辺氏の著書はまさに上記したような、今まではっきり覗くことができなかった石川の隠れた姿を明るみに出したものであったと言えよう。研究会では『石川淳傳説』の中に書かれたことで各自が関心や疑問を持ったことを渡辺氏に質問する形で進められ、その後石川淳に関するさまざまな話題が出され自由活発に討議がされた。著書並びに合評で改めて明らかになったのは、石川が自らの過去を意図的に〈隠蔽〉しようとしたことである。今回渡辺氏の調査によって父・斯波厚、兄・斯波武綱がどのような人物であったかその輪郭がはっきりしてきた。そしてそれと同時に祖父については言及することがあっても父について語ることがなかった石川の隠された思いが見えてくるような気がした。

 父・斯波厚は石川家の事情により斯波家に養子に出され、厚の次男であった淳は石川家の養子となった。しかし斯波家と石川家は居を同じくしていたことは明かであり、生計を共にしていたことも分かった。とすると、地元浅草の有力者であった父・斯波厚が関わった一連の事件は、若き石川淳にとって衝撃的な出来事でありそれが実質的にも精神的にも大きな影響を彼に与え、後に濃い影となって背中を刺し続けたことは想像に難くない。渡辺氏の一連の調査によって明らかになったこれらのことが、後の作家・石川淳にとってどのような意味を持つものになり、彼の創作にどのような影響を与えたのか検討する意義はあるだろう。

 また渡辺氏からもフロアーからも共に出された話題として特筆すべきことは、石川が『諸国畸人伝』の中の「阪口五峰」で書いている坂口安吾の父と石川の父・斯波厚の類似性である。二人は共に地元の有力者であり政治家であった。似たような立場の父を持った二人の作家が登場した。石川は安吾に対して相当な親近感を抱いていたのではないか。しかし安吾の父については書いたのに自らの父については触れない。そこに石川の傷の深さが実は見られるのかもしれない。

 最後に個人的な感想を記しておきたい。

 今回『石川淳傳説』を読み、卑近な言葉ではあるが渡辺氏の石川淳への深い愛を強く感じた。それと同時にこの合評会に参加したことで改めて自分自身も石川淳研究の末端にぶら下がっているのは石川淳という作家がとても好きだからなのだなと再認識させられた。今回石川淳の別の顔を見ることで新たな魅力を感じずにはいられなかったからである。飄々とした人物として語られることの多い石川淳であるが、このような消したい過去を隠すある種の人間臭さを知ることで、石川淳研究にも新しい展開を与える契機になるかもしれない。このように一人の作家についてじっくり議論する時間を持てるのは、小さな個人作家研究会の大きな魅力であると思った。

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